市民公益活動審議会 答申 第1章

ページ番号1007068 更新日 2022年9月21日

第1章 市民公益活動促進の基本的な考え方

第1節 市民公益活動の概要

阪神・淡路大震災以降、市民による営利を目的としない市民公益活動が広く認識されるようになった。市民ニーズが多様化、個別化していく中で、より豊かな市民生活を築くためには、行政や企業だけでなく、柔軟性・独創性をもった市民公益活動団体が社会的役割を果たすことが求められている。
平成10年(1998年)に制定された特定非営利活動促進法(NPO法)の制定以降、NPO(Nonprofit Organization、民間非営利団体)という捉え方が急速に普及し、これにより市民公益活動の幅が大きく広がってきた。これまでの市民公益活動は無償のボランティア活動が中心であったが、有給の専従スタッフを確保して専門性を高め、継続的・安定的に事業を展開するスタイルの市民公益活動が広がってきた。このNPOの捉え方の普及で、ボランティアが有給のスタッフを雇い、活動を事業化するという形態も広がってきた。こうして市民公益活動は急速に活動を高めつつある。

市民公益活動とは何か
平成14年(2002年)に制定された吹田市市民公益活動の促進に関する条例では、「市民公益活動」を「市民が自発的に行う営利を目的としない社会貢献活動」(第2条)と定義している。さらに市民公益活動団体は、主として市内を活動地域とする市民公益活動を行う団体やボランティアグループである。市民公益活動の担い手が共益団体(同窓会やクラブなど会員相互の親睦を目的とする組織)や自治会などの地縁団体の場合も広く市民公益活動団体の対象としてとらえる視点が必要である。このため市民公益活動の促進策を検討するにあたって、市民公益活動を確認しておこう。
日本を含む世界12カ国の民間非営利セクターを分析する試みを行った「ジョンズ・ホプキンス大学非営利セクター国際比較研究プロジェクト」は、「非営利セクター」の特徴として(1)正式に組織されていること、(2)民間であること、(3)利益配分をしないこと、(4)自己統治していること、(5)自発的であること、を挙げている(L.M.サラモン他著『台頭する非営利セクター』より)。
この5つの特徴をもつ団体には、草の根の市民公益活動団体はもとより、公益法人、医療法人、学校法人、労働組合、政党、宗教団体、自治会などの地縁団体、同窓会なども含まれる。この中で、市民公益活動団体は、法人格の有無を問わず、地縁団体やボランティア団体で、市民が主体的に社会貢献活動を行う民間の非営利団体を言う。

第2節 市民公益活動の特性

1.市民公益活動の「長所」

市民公益活動には次のような長所があり、時には行政を超える可能性をもっている。

(1)多彩さ

まず市民公益活動は多彩さという行政が最も苦手とするサービスを容易に実現する。行政の活動は、過半数以上の市民が望む公約数的なものに限定されるが、市民公益活動は、それぞれの得意な、あるいは特に関心を寄せるテーマに集中的に取り組むことができる。その結果、市民公益活動全体としては、極めて多彩な活動が展開されることになる。

(2)対応の容易さ、温かさ、柔軟性

それに市民公益活動は、すべての住民に公平に関わらなければならない行政と違い、「全体」に拘束されないがゆえに、行政では難しい“個々に応じた対応”が容易にできる。つまり、画一化、一律化を避け、“心のこもった”“温かい”サービスや状況に応じた柔軟な対応が容易にできることになる。

(3)機動性

以上の特性がゆえに市民公益活動は災害時などに極めて機動的に活動できる。「全体の奉仕者」である行政は、全体の状況は判断が困難になる災害発生直後、一時的に機能麻痺ならざるを得ない。しかし市民公益活動では「私が手伝いましょう」と自発的に行動を起こせば、目の前の課題にすぐに対処できる。市民公益活動が機動性を持つのはこのためである。

(4)効率性

さらに市民公益活動は、自己責任で活動するため、創造的な活動を展開していくことも容易である。限られた資源を最大限、有効に活用しながら活動することになり、結果的に企業に似た形での活動の“効率性”を持つ場合が多い。そもそも、寄付者・支援者の確保にも、企業と同様に競争原理が働くため、創造性や効率性の高い団体ほど活動を広げることになる。

(5)先駆性・開拓性

また市民公益活動は、自己責任で活動し、必ずしも採算にとらわれない面をもつことから、創造的な活動を展開していくことも容易である。これも企業と似た事情だが、必ずしも採算にとらわれない点では、先駆性・開拓性は企業以上だとも言える。実際、現在、広く実施され、中には制度化されている様々な社会サービスの大半は、当初、市民公益活動として始められたものである。

(6)もう一つの「民間活力」の担い手

このように行政同様、営利を目的としない公共活動の担い手でありながら、企業にも似た活力をもっている。「民間活力」とは、利益を追求する企業だけではなく、現実の暮らしと格闘する生活者の試行錯誤の中にもあるからである。「このままではいけない」「放っておけない」という改革意欲は、起業家精神にもつながる開拓性と活力の源だと言える。

以上あげた長所は一般的に行政がもちあわせない点である。つまり市民公益活動は、行政のできない「もう一つの公共サービス」を生み出すことができる。

2.市民公益活動の「弱点」

市民公益活動には、一方で以下に指摘するような短所、弱点がある。

(1)全体の状況を見通しにくい

市民公益活動は、自発的活動であるがゆえにさまざまな長所を持つが、実はこの自発的であることは、反面として市民公益活動の弱点にもなる。特定のテーマを選ぶことで活動への端緒を開くことができるが、逆に社会の課題をすべてに取り組むことは極めて難しい。
また、自分を起点に動くため「全体」を見通せないまま動き、結果として独善的な行為に陥る危険をはらみやすい。善意から出発した行為であっても、その行為が「効果」をもたらす保障はないからである。活動の効果を冷静に見通す想像力や、行為や企業という異なるセクターの長所も理解できるセンスも必要となる。

(2)「自発性パラドックス」に陥りやすい

また、自発的な活動は、それが自由な活動であるがゆえに「ここまですれば十分」という一般的な基準がない。実際、身の安全が保障されない中、紛争地域で活動する「国際赤十字」や「国境なき医師団」のような活動もあれば、深夜の電話相談活動に携わるボランティアもいる。逆になにもしない人も大勢いる。つまり「するかしないか」も、「どこまでするのか」も自由に決められるのが自発的な活動だが、逆にそれゆえ、市民公益活動では「どこまでするのか」も自分自身に問いかけながら活動を進めることになる。そうなると自発的に行動しようとする時、「他人のせいにする」対応は取れない。問題を正面から受け止めざるを得なくなるわけで、このことが「がんばる人ほど疲れてしまう」といった問題をもたらすことになる。
自発的に問題を取り組む人が、かえってしんどさを抱えやすい「逆理」(パラドックス)を金子郁容慶応大学教授は「自発性パラドックス」と呼んだが、このような事態を避けるためには、問題を一人(少数)で抱え込まないようにする必要がある。そこで市民公益活動団体と、寄付者やボランティアなどの支援者をつなぐ仕組みづくりを進めることも、市民公益活動を促進する上で極めて重要である。

(3)財源面での貧弱さ

行政のような徴税権を持たず、また企業のように対価と交換でサービスを提供するわけでもなく市民公益活動は、恒常的に財政面での困難性を抱えている。仮に人的な面はすべてボランティアで対応できたとしても、活動を活発化させれば、当然に会合のための会場費、通信費、研修費などさまざまな経費が必要となる。さらに安定的・恒常的に活動を進め専門性を高める上で、専従スタッフの確保は大きなテコとなるが、そうすると人件費の性格上、毎年少しずつ増加しがちである。しかし、収益性のある活動を開発したり、新たな支援者を確保したりしない限り、収入は増えず、赤字に陥り財政的に破綻してしまう。
この点で支援者と市民公益活動団体をつなぐ仕組みづくりは重要であり、さらに財源確保に関する講座の開催や、補助制度の充実、事業委託・受託の推進などが必要となってくる。

第3節 市民公益活動の社会的意義と役割

高度経済成長時代以来の行政は、公共すなわち行政という公共概念により、増大する行政需要や多様化する市民ニーズに対応した結果、行政組織の肥大化・硬直化を増大させた。また、少子・高齢化の進行など社会経済構造の大きな変化により、人々の意識も経済的な豊かさから心の豊かさ、ゆとりなど、生きがいのある生活への傾向が強まっている。このため、市、市民、企業及び市民公益活動団体に求められることは、公的活動の共通の担い手であるという認識に立ち、問題に取り組むことが重要である。
市民公益活動には、次のような社会的意義と役割がある。

1.社会サービスの新たな担い手

行政は市政を運営する場合に、常に公平性や中立性などを求められているため、市民ニーズの多様化に行政が十分対応できなくなっている。
これに対し、市民公益活動は、市民生活が展開されている場で、個々の市民ニーズに対応した、新しい社会サービスを提供する担い手として期待されている。

2.コミュニティの活性化

地域の自治組織は地域の様々な課題に取り組み、コミュニティを支える存在といえる。一方、有志型の市民公益活動団体は特定のテーマにしぼり活動することに持ち味をもつ存在であり、両者が協調することで、より豊かなコミュニティを築くことができる。

3.まちづくりの推進役

身近な地域社会の抱える課題を最も把握しているのは、地域住民である。このことから、地方分権が進展すると、地域のことは自己の責任で、地域で自己決定していくことが求められる。このため、地域の自治組織と連携することで、市民参画によるまちづくりの推進役としての活動も果たすことになる。

4.新たな経済活動の創造

市民公益活動団体の活動は、先駆性、開拓性を持つ上に、必ずしも採算にとらわれない特徴があるため、創造的な活動を展開していくことが容易である。このため、市民公益活動が、新しい事業の創造につながり、地域経済の活性化につながる力を発揮することになる。

5.自己実現の場としての役割

市民公益活動に参加することを通じて、生きがいと社会使命を見い出し、個人の多様な生き方を保障する社会が実現できると考えられる。また、一人ひとりの力が社会的課題の解決に重要な役割を担っていくであろう。

第4節 市民公益活動をめぐる現状と課題

1.市民公益活動の現状と課題

吹田市の市民公益活動は活発化してきており、『ボランティアグループ・NPOガイドブック』(平成14年12月、吹田市発行)に掲載されている団体だけでも任意団体・ボランティアグループが114団体、法人格のある団体は32団体となっている。
また、吹田市が平成12年(2000年)7、8月に実施した市内の非営利・公益活動団体120団体のアンケート結果「市民活動と行政の協働に関する調査」(平成13年3月発行)によると、活動上の課題は、困っている順に、

  1. 運営のノウハウ(情報発信や収集、広報、インターネットなどの情報不足)
  2. 人材不足(専門家・助言者、活動メンバー、会員・支援者、専従スタッフ)
  3. 活動資金(資金不足、助成金・補助金の獲得ノウハウ)
  4. 活動拠点(備品の置き場、集まる場所、郵送物の受け渡し)

になっている。
これらは、ほぼどの団体もかかえている共通の基本的な課題であるが、単独の団体では解決の方法すら見えてこないことも多い。
このように市民公益活動を進める団体の活動が、多分野にわたって盛んになっている。しかし、「ここまで活動すれば良い」という基準がない市民公益活動では、自発的な行動に支えられて意欲を持って活動している人ほど仕事や責任の負担が大きくなり、活動場所や資金や活動仲間の確保などで疲れ果ててしまい、時には挫折してしまうこともある。これは、分野を超えた自発的な活動全般に共通する課題である。そこで、このような、個々の活動を横断的に支える専門的な支援組織が必要になってきている。
今後、個別課題解決の活動だけでなく、分野横断型の活動が重要になってくる。さらに各個別の活動を支援しながら総合的なコーディネートができる組織が必要になってきている。また、市民公益活動を行う者や団体が、活動が継続し、発展していくためには、活動に対する各種の支援を考えていかなければならない。

2.企業の社会貢献活動の現状と課題

企業等の事業所は地域を構成する企業市民としての大きな役割を担っている。企業を構成する人は、その地域に居住する人と地域外から通勤する人とで構成されるが、その地域において多くの時間を過ごす者として、市民同様に考える必要がある。また、企業にとっては、地元の理解と支援を得ることは重要なことであり、多くの企業は企業市民として地域の公益活動に参加、協力し、地元での地域貢献を果たす企業が増えている。
吹田市では産業フェア、吹田まつり、ボランティアフェスティバル等のイベントが地元企業の参加、協力によって開催され、地域の活性化に貢献している。
市内の企業には、全国的に展開している企業もあれば、地元中心の企業もあり、それぞれが、地域に対する関わりの程度、あるいは、企業独自の価値観により貢献しようとする分野や貢献の方法が異なる。また、これまでは寄付や活動助成などの資金や物の提供が中心であったが、期待する支援の内容は、企業のもつ事業計画、企画立案のノウハウ、マンパワーなど多様化している。
一方、企業からすれば、市民公益活動とのつながりが深まることにより、企業のイメージアップが図られ、市民の新しいニーズをつかむことができ、あるいは企業自身の新たな価値観を生むといった可能性を含んでいる。
このため、企業が蓄積してきた豊富な経験が市民公益活動に提供できるように、情報提供と情報の交流が図れる仕組みづくりが必要である。
なお、特に近年、企業経営において、CSR(Corporate Social Responsibility・企業の社会的責任)の重要性が指摘されるようになってきた。これは、社会的側面から見た企業評価が企業経営自体を左右する事態が進む中で重視されるようになったものだ。
すなわち、経済のグローバル化が進む中、児童労働などによって製品を製作する企業が欧米のNPOから厳しく批判され幅広い消費者を組織して不買運動が展開される一方、逆に社会貢献活動に熱心な企業の社債を集めた投資ファンドがSRI(Social Responsibility Investment・社会的責任投資)として積極的に購入されるようになってきた。また日本でも、企業の不祥事などによって消費行動が大きく左右され、時に企業の存続自体が問われる事例も出ている。
このような中、国際標準化機構(ISO)でも、CSRを評価する国際基準の作成を準備しているが、そこでは当該企業だけでなく、取引企業の状況も評価されるため、大企業だけでなく、中規模・小規模の企業にも影響する動きとなっている。
しかし、この動きは、逆に社会貢献活動に力を入れている企業にとっては、その取り組みを市場が評価する追い風的な動きと言える。
吹田市でもこうした動きをふまえ、企業の社会貢献活動を積極的に広報することも必要であろう。

第5節 市民公益活動の推進と行政との協働促進に関する政策上の原則

1.市民公益活動と行政の協働促進に関する原則

市民公益活動と行政の協働というテーマは、現在、行政改革とも関連した統治システムのあり方を巡って議論が活発化しつつある「ガバナンス(協治)」論と連動していることも見落としてはならない。つまり、従来は、行政を上位に置き、統治する主体としての行政を上位に置き、統治される対象としての市民を下位に置くという「上-下・統治-被統治」の関係を基調とする伝統的な統治スタイルがとられてきた(この統治スタイルには「ガバメント」という用語があてられる)。しかし近年、多様な主体の協働によって公的サービスの供給や、地域問題の解決を目指す水平ネットワーク型の統治スタイル(これを「ガバナンス」(協治)と呼ぶ。)への変化が進んでいる。そこでは、行政とともに市民、市民公益活動団体、企業等も公共政策の主要な担い手ととらえ、各主体の連携と役割分担による効率的・効果的な問題解決、公共サービスの提供が求められる。今、このような新しいシステムを支えていくために、「協働」という関係構築が重要な課題となってきているのである。
平成12年度(2000年度)にまとめられた「市民活動と行政の協働促進研究会」報告書では、市民公益活動と行政との関係について、『公共的な課題解決に取り組む者同士として、双方の弱点をカバーしつつ、双方の長所を活かしあう形で連携する「協働」の関係を築き、これによって、全体として公共サービスの質を向上するという施策を進める必要がある。この場合、「下請け」や「穴埋め」ではなく、「協働」と言える関係になるためには、両者が“対等な関係”になること、共に課題解決に取り組むこと、企画段階から市民が参画できるようにすることなどが必要になる』として、両者の協働を進める必然性について述べている。
本審議会でも、その内容について協議した結果、その考え方を、本市の市民公益活動推進と行政との協働促進に関する政策上の原則とするべきだとの結論に達した。その原則とは、以下の5点である。

(1)対等の原則

(市民公益活動団体と行政が対等な立場に立つこと)

市民公益活動団体と行政が協働して課題を解決する際、市民公益活動団体の特性を発揮するためには、双方が対等な関係で連携することが不可欠である。特に行政は市民公益活動団体も行政と同様に公共活動を提供する担い手だと認め、上下ではなく横の関係にあることをお互いに常に認識し、各々の自由な意志に基づき協働することが第一歩となる。また協働を進める上で、企画段階からの市民の意見集約ができる環境の整備が望まれる。

(2)公開の原則

(協働にあたっては市民公益活動団体と行政の関係などが公開されていること)

特定の市民公益活動団体と行政が協働関係を結ぶ時は、両者の関係は、外からよく見える、開かれた状態であることが必要である。そのため両者についての基本的事項に関する情報が公開され共有されているとともに、一定の要件を満たせば誰もがその関係に参入できることが、公共的課題の解決に関する協働には欠かせない条件である。

(3)自主性確保と自立化推進の原則

(市民公益活動の自主性確保を前提に自立化を進めること)

市民公益活動の特性を発揮する上で、市民公益活動の自主性・主体性が確保されることが求められる。それに行政との協働にあたって市民公益活動の長所を活かすには、市民公益活動団体が独立し、自立して事業を展開できることが必要である。そこで、市民公益活動団体がさらに自立を進め、協働できるだけの力量を蓄え、依存や癒着関係に陥らない促進策とすることが重要である。

(4)相互理解と相乗効果の原則

(相互の特性を理解し目標を共有し、相乗効果を生み出すこと)

行政と市民公益活動相互の特性を十分認識・尊重し、促進策の目標が何であるか双方の共通理解を深めた上で、促進策の展開を通じて、両者が単独・独立に事業を進める以上の効果(相乗効果)を生み出すよう努めることが必要である。

(5)市民公益活動優先の原則

(市民が創造した公共サービスは、行政より優先させること)

従来行政が行ってきたサービスであっても、市民公益活動団体が行政に代わって担うことができるサービスについては、積極的に市民公益活動団体に委ねることが重要であり、また、市民公益活動団体が活躍する公共的活動分野においては、行政サービス提供の配慮が必要である。

いま私たちをとりまく情勢は、少子高齢化、地球環境問題の深刻化、地域経済の不振などにより、市民生活に密接に関わる多様な問題が複合的に顕在化してきている。またこれらの問題が専門化、グローバル化の傾向を促し、従来のように行政のみに頼っていては問題解決が困難になってきている。一方、核家族化、生活の多様化などの中で、この新たな状況に対して、これまで大きな役割を果たしてきている地域を基盤とした支えあいだけで問題解決を図ることも難しくなっている。ここに、従来からある地域の自治組織に加え、有志で取り組まれる市民公益活動団体、それに企業、行政による新たな協働関係を築かねばならない社会的な必然性がある。
自治体職員や市民公益活動に関わる人々はもとより、企業、地域自治組織を含むすべての市民はこのことをしっかり認識し、この共通した認識の下で市民(市民公益活動)、企業、行政それぞれが意識改革を促進し、市民公益活動を支援していくことが求められる。

2.協働促進策推進にあたっての課題

以上の点をふまえ、市民公益活動団体と行政の協働促進策の推進にあたって、双方の課題を列記すると、以下のようになる。

(1)行政側の課題
  1. 市民公益活動に対するパートナーとしての理解と認識・位置付けを行うこと
  2. 従来のような縦割りではなく横断的な形で行政情報を公開すること
  3. 協働(支援)する目的や協働する基準を明確にすること
  4. 協働で進める事業の評価方法を市民が参加した第三者機関に委託するなどして確立させること
(2)市民公益活動団体側の課題
  1. 行政と協働するパートナーとしての理解を進めること
  2. 行政や企業と協働の事業を進めていく自立した組織の確立を進めること
  3. 社会的認知を高めていくために積極的な情報開示をすすめ、公共的な社会資源を活用する上で必要な説明責任を果たすこと。

また、以下に述べる企業との協働が促進されることで、行政との協働促進にも相乗的な効果が期待できる。

(3)企業側の課題

企業等の事業所は地域を構成する重要なメンバーであり、そこに通い働く人と、法人としての企業が、企業市民として地元市民と共に市民公益活動に参加することは、市民公益活動促進にとって大きな力となる。また、企業にとっても、地元地域が良くなり、企業に対する市民の理解が得られて、地元のファンづくりができれば大きなメリットとなる。
そのためには、企業も市民であるという意識を、企業、市民、行政が理解し、協働の場を共有することによって、企業の市民公益活動への積極的な参加を促進する必要がある。

(4)地域の自治組織と有志型市民公益活動団体との連携の意味

市民による公益活動には、特定のテーマ解決のために有志が自発的に集って作られる「有志型市民公益活動団体」の取り組みとともに、自治会や青少年対策協議会、体育振興協議会、防犯協議会などのように地域住民が結成する「地域自治組織」の活動もあり、地域の問題解決のために地道な活動が続けられている。
このうち、有志型の市民公益活動団体の中には、今日の都市化や情報化の中で、自治会や町内会といった従来の地域の自治組織だけでなく、個人の生活を守る新たな拠り所として、地理的なつながりにこだわらない新たなコミュニティ形成をめざすものも少なからず見受けられる。
一方、自治会(町内会)などの地域の自治組織も地域での様々なコミュニティ活動の展開に腐心している。これら地域の自治組織は包括的に地域のさまざまな課題に取り組み、コミュニティを支える存在と言える。一方、有志型の市民公益活動団体は特定のテーマにしぼって活動することに持ち味をもつ存在であり、両者が協調することで、より豊かなコミュニティを築くことができる。
そこでこれまで社会的課題に取り組むセクターとして、行政セクター、企業セクター、非営利セクターの3セクターが存在するとされ、特に非営利セクターの中でも有志による市民公益活動団体の活動に一般の注目が集まってきた。しかし非営利セクターには伝統的な地域の自治組織も含まれるわけで、この地域の自治組織の存在にも注目し、それぞれの存在する意味や役割分担を相互に確認し、対等なパートナーとしての協働関係を築いていく必要がある。
ただし、促進策を推進するにあたっては、有志型の市民公益団体の場合は、公開コンペなどを通じた公正な競争の後、補助や委託先などの選定を行うことも可能だが、地域の自治組織の場合、いたずらに相互の競争をあおることは適当でないといった性格の違いがある。そこで、同じ市民による公益活動だとはいえ、両者に対する対応を機械的に一律にせず、それぞれの特性が生きる形での協働促進策がとられる必要がある。
なお、この場合における地域の自治組織には、地域に密着した商業活動を支える商店街組合等の商業協同組織も含めた広義の意味で解釈するものとする。
吹田市「ボランティア活動等の市民公益活動に対する市民意識調査」報告書(平成13年10月、吹田市発行)によれば、ボランティア活動等の市民公益活動に対する吹田市民の意識は、現在、市民公益活動に参加している人が約1割。今後参加したいと考えている人が約8割いるとのことである。そこで、非営利セクターの中の二つの活動主体間で協働関係ができることは、ある意味では行政との協働以上に効果的で、かつ広範な地域からの資源活用に貢献するものとも考えられる。地域を多様に支え合う市民公益活動の協働は、社会的課題の解決に重要な役割を担っていくであろう。

第6節 市民公益活動の今後の方向性について

1.政策形成プロセスからの市民参加の推進に関すること

近年、行政とともに市民、市民公益活動団体、企業等も公共政策の主要な担い手だとする認識が広がってきた。そこで、それぞれの連携と役割分担により効率的・効果的に地域社会の問題を解決し、あるいは公共サービスを創造し供給することが求められている。ここで、市民や市民公益活動団体等がより主体的に活動を進めるためにも、政策決定・政策実施・政策評価という一連の政策形成の各段階に、市民、市民公益活動団体等の参画を保障する「協働型政策形成システム」の確立が必要不可欠になってくる。

(1)多様な政策ラウンド・テーブルシステムの設営

「協働型政策形成システム」、すなわち行政だけで完結しない外部に開かれた政策決定方式としては、市民、市民公益活動団体、企業、大学などが参加できる「政策ラウンド・テーブル」(円卓会議)を開催することが有効である。この場を通じて、市民、市民公益活動団体、企業、大学などと行政の協働による、政策問題の発見と確認、協働政策の実現に向けた協働を実現することが期待できる。

(2)期待される効果

この「協働型政策形成システム」の導入によって期待できる効果は、以下のようなものである。

  • まず、潜在化している市民の政策ニーズや地域で発生する問題・課題を先行的に把握しやすくなる。その上、自由な提案を受け止めることも容易になる。こうしたことから、(潜在的ニーズを把握するから)長期的で、かつ(地域の問題を未然に把握するから)予防的視点に立った先見性・先駆性にあふれるビジョンや、(自由な提案を得られるから)従来の枠組みにとらわれない大胆な政策提案が生み出せる可能性がある。
  • 協議のプロセスを通じて、自治意識の醸成や行政責任の明確化など関係主体の役割分担・責任分担が進み、市民にとっては地域の問題・課題を解決するための住民自治意識が強化される一方、行政にとっても行政責任の明確化と、地域に根ざした政策立案力の強化に結びつく。
  • 市民・市民公益活動団体・企業・行政等が参画する多様な「公論の場」の設営は、自ずから地域民主主義の活性化に結びつく。
  • このように「政策ラウンド・テーブル」は、予測される地域の問題・課題を未然に、かつ予防的に解決する可能性を秘めており、長期的にみれば社会・経済的コストの削減にも結びつく。

なお、政策決定段階における「政策ラウンド・テーブル」方式は、従来からの審議会方式を否定するものではない。基本的には2つのシステムが相互補完の関係を維持しながら、これまで以上に政策決定の透明化と公平化を進め、政策を質的に向上するために採用するのだという視点が重要である。また、「政策ラウンド・テーブル」で提起された先駆的・先験的な問題を解決するための調査研究を市民公益活動団体、専門家、行政等で遂行するための「協働型政策研究システム」の確立も必要である。

2.市民公益活動団体と議会との協働関係の構築

地方自治体では住民が首長と議員の両者を選出する「二元代表制」をとり、これによって民意をより強く政策に反映する仕組みをとっている。
ところで、今後、市民や市民公益活動団体等が、行政との協働による政策形成や公的サービスの供給を進めることにより、多様な主体が協働関係を構築しながら地域の問題解決をめざす「水平ネットワーク型」の地域運営スタイルである「ローカル・ガバナンス」(地域協治)の流れが強くなることが予測される。このような流れの中で、行政と市民が直接話し合うことで政策が立案される場面は増加することになり、また、さらにパブリックコメントなど市民が、直接、政策立案に意見を表明する機会も増えている。
しかし、こうした仕組みの導入により首長の提案する政策が事前に市民の参加やチェックを経て立案されることになると、相対的に議会の権能が低下する危険性もある。もし、こうした事態に陥った場合、「二元代表制」による民主的行政運営体制が弱体化することも懸念される。
そこで、一般的な課題として、首長(執行機関)と並ぶもう一つの代表である議会もこのような状況に対応した機能強化が必要不可欠になってくる。具体的には、特に市民公益活動団体と行政との協働が進められる分野で、条例制定等の議決機関として、両者の協働が円滑に推進されるための条件整備に積極的に関与することが期待されている。また、決算委員会などを通じて、両者が癒着関係に陥らないための監視機能を一層充実することも必要になってくると思われる。
一方、この議会の政策立案力、政策評価力、行政監視力を強化するためには、議会関係者が市民公益活動の実情に対する理解を深めることも必要である。そこで、市民公益活動団体と議会の協働関係の構築も急務となっている。つまり市民公益活動団体も、議会との協働関係づくりを積極的に進めていく努力が必要である。
そのためにも、参考人・公聴会制度の積極的な活用により、議会の公式、あるいは非公式の審議等への市民公益活動団体の参加を求めることや、市民公益活動団体と議会、あるいは議会会派との協働による政策研究に取り組むことも考えられる。
また、市民公益活動団体が開催する「政策ラウンド・テーブル」への議員の参加、議会・会派自身による「政策ラウンド・テーブル」の開催など、議会自らが社会への公論喚起を通じて「ローカル・デモクラシー」(地域民主主義)の活性化に貢献することも期待される。

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