令和元年9月号市報すいた市長コラム「あの時からの50年」

ページ番号1013110 更新日 2022年9月21日

先日、自宅を整理していたら、懐かしい本が出てきました。「釣り堀のヘラブナ釣り」。中学生の頃の愛読書です。当時、近所の釣り堀に通い詰めていた私は、著者の小川魚遊（ぎょゆう）さんに手紙で質問を送るほど、ヘラブナ釣りに夢中でした。

数年後大学へと進学し、東京で一人暮らしを始めた私は、ある時この本の舞台となった池がほど近いことを知りました。訪ねてみると、そこには本の表紙と同じ池が。気持ちを押さえつつ、「ここは小川魚遊さんの」と釣り堀の管理人さんに聞くと、「もうお年だけど、今もあの家にいらっしゃるから、寄っていったら」と、池全体を眺めるように建つ青い屋根の家を指さしてくれました。

憧れの師匠がすぐそこに、と胸が高鳴るも、私はそこから動くことができませんでした。あの時の質問に、丁寧な返事のはがきをもらってうれしかったこと、魚や海に魅せられ、その道を研究したいと上京したこと。伝えたいことはたくさんありましたが、あと一歩、勇気が出ませんでした。

もし、小川さんと巡り合えていたら、どんな時間を過ごせただろうか。色あせた表紙を眺めながら、果たせなかった出会いへの後悔がじわじわと込み上げてきました。

近く、このバイブルを手に再訪するつもりです。学生時代に見た、あの光景に出会うことを期待しながら。